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2010-01-16

ベストセラーの構造

先日、WOWWOWで村上春樹のベストセラーの秘密を探る番組をやっていました。その中で、千葉にある一書店のポップからベストセラーになった本が紹介されており(『白い犬とワルツを』)、そのポップを書いた店長がインタビューに応じていました。
その店長は、今はポップを書くことをやめていて、その理由をたずねられると、「人から勧められて本を読む限り、自分の一冊には出会えない」「自分で探してこそ、自分だけの一冊に出会える。それが難解でも、難渋して読むことで、それが自分の一冊になる」という主旨のことを言っていました。
 それゆえポップを書くことをやめたそうです。
 私には、「難渋して読む」というフレーズが心に残りました。まさに、昨今の若者は「難渋して読む」ことを忌避する傾向が強く、アニメ、ラノベ、携帯小説の世界からなかなか抜けられません。
われわれの時代は、知的好奇心を満たしてくれるものが、小説なら文豪の古典ばかりだったので、難しくてもそれを懸命に読みました。その繰り返しにより、それがいつの間にか、自らの”地”になったのです。しかし今の時代、細分化されたニーズに応えるべく、手を伸ばせば何もかもあるので、若者は殻を破ることができません。蛸壺に入り、出てこられなくなっているのです。それは、知的虚栄心さえ持つことのできない現代の若者の悲劇でもあります。
 そして、自らが蛸壺の中にいないことを確かめる唯一の手段が、ベストセラーを手に取ることであり、人はベストセラーに殺到します。そして、それを読む(ないしは所有する)ことで免罪符を得て、またラノベやアニメを貪り、ゲーム三昧の日々を送ります。
 村上春樹のベストセラーの背景には、こうした構造があったのです。
 それゆえ、『1Q84』は最後まで読まれることのない稀有なベストセラーとなりました(購入者の読了率は30%と言われています)。
 ベストセラーやメガヒットに象徴されるように、まさに世の中は、「追従社会」であり、この傾向は、特に出版界で顕著に現れています。村上春樹、東野圭吾、伊坂幸太郎、佐伯泰英らに代表されるベストセラー作家の人気は際限がなくなり、その他の作家との差は開くばかりです。つまり、作家のピラミッド構造が崩壊し、二極化が起こり始めているのです。
 これは日本だけに特異な傾向であり、欧米では見られないそうです。欧米における作家の裾野の広がりは信じ難いほどで、さらの新人や兼業作家までが、ある程度の収入を得られる仕組みが確立されていると言われています。
これこそ、「追従」をよしとしない欧米人ならではの市場構造です。
 日本人の国民性として、「追従」はけっして逃れられない頚木なのかも知れません。しかし、「自分の一冊」を見つけるために、ほんの少しだけ努力してみるのも悪くはないかも知れません。
ちなみに、番組の最後で、「あなたにとってのベストセラーとは何ですか」という問いがこの店長にされていました。
店長は「できればない方がいいもの」とだけ答えていました。その深い意味に想像をめぐらすだけで、出版業界の未来が見えてくる気がします。

注) この記事はあえて自らの立場を忘れて書きました。その点を踏まえた上で、お読み下さい。
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