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2012-05-08

『疾き雲のごとく』創作の舞台裏

さて最近は、身辺雑記や趣味の話が多くなったためか、拍手数がとみに減ってきました。
やはりこのブログに来ていただける方は、小説関連の話にご興味がおありということを再確認しました。
なでしこのネタは面白いと思ったのですが…。
「スナックのママ」のくだりで、深夜に一人で笑いこけていたのですが、そんなに面白くなかったようですね(無念)。
ということで、創作にまつわるマジ話に回帰しましょう。


疾き雲のごとく(帯付き)1

 3/16に発売された『疾き雲のごとく』(講談社文庫)ですが、早くも二カ月が経ちました。
 おかげさまで、まずまずの滑り出しのようです。
 この作品は、「早雲を書きたい」という思いと、「そろそろ短編でも書くか」という思いが重なった結果、生まれました。
 私が初めて執筆した短編集となります。
 後に書くことになる短編集と異なるのは、最初に太田道灌、扇谷上杉定正、足利茶々丸、大森氏頼、今川氏親、三浦道寸といった早雲を取り巻く人物をピックアップしてから、「さて、どんな話にするかな」とした点でした。
 まず、それぞれの人物と早雲の関係性を調べ、その中で「引っ掛かる点」を抽出しました。
 「引っ掛かる点」を先に抽出してから題材を考えるが、歴史短編(とくにミステリー)の基本創作法です。
 以下が「引っ掛かる点」です。

道灌 道灌ほどの男が、なぜ交渉事で早雲に後れを取ったのか。
定正 落馬による頓死の裏に何があったのか。
茶々丸 なぜ、いとも簡単に早雲にしてやられたのか。
氏頼  同上(厳密には氏頼の死後) 
氏親 いかにして駿河の静謐と今川家の栄華を築けたのか。
道寸 徹底抗戦した理由は何か。
 
 同時に、道灌といえば「巨大な自意識を持つ旧体制の護持者」、定正といえば「戦好きの見栄っ張り」、茶々丸といえば「血塗られた復讐者」、氏頼といえば「信心深い人格者」、氏親といえば「良識ある為政者」、道寸といえば「誇り高き頑固者」といった、それぞれのキャラクターを、残された古文書類や事績から築いていきました。
 そして先ほどの「引っ掛かる点」と整合性を取っていったのです。
 小説とは個別生産型ですが、生産工程をある程度、統一することで生産性が上がるのです(アイデアを発展させやすい)。
 次は視点をどうするかです。
 早雲を謎のヴェールに包まれた男とするためには、すべてに他者の視点が必要です。しかし、こうした有名人だけで視点を設けると、どれも同じようになってしまいます。それゆえ、個性的な二人だけに視点を持たせました。
 道灌と氏親です。
 その他の三篇には、それぞれ馬丁、娼婦、仏師、僧侶といった架空の人々の視点を設けました。
 これにより早雲との間に距離ができ、箱根山を覆う霧のように早雲の謎度が増しました。
 かくしてプロットの構築に入るわけです。
 ブロットを考える上で注意すべきは、すべての短編をどんでん返しにしないということです。
 ジェフリー・ディーヴァーのように「これでもか」といったどんでん返しを続けることは、手慣れてくれば、さほど難しくはないのです。
サッカーで言えば、「ボールを裏に出す」といった感覚です。
 ただし歴史小説の場合、これをやりすぎると重厚感がなくなります。五篇あれば二篇がラストのどんでん返し、二篇が途中での軽めの返し技(倒叙法的展開でもOK)、一篇がカタルシスだけで読ませる(ミドルシュートを蹴る)という割合がいいでしょうね。
 難しいのは「途中での軽めの返し技」ですね。これは読者に「俺はこうなると分かっていたんだよね」と、優越感を抱かせるために伏線や布石を蒔いておきます。
 いわゆる「中盤でのビルドアップ」ですね(笑)。
 これをやると、読者は「こうなると分かっていた」気がするのです。
 読者はラストでのどんでん返しを好みますので、短編集の中では、その短編の評価が自然に高まりますが、それでいいのです。なしのものがあるからこその高評価なのです。
 言い換えれば、花屋さんでバラや百合ばかりを束ねてもらわないのと同じです。
 ミドルシュートを蹴っている短編にも、実は「重厚感を醸し出す」という役割が課されており、これが短編集全体を引き締める効果があるのです。
 拙著で言えば、『疾き雲のごとく』では『道灌謀殺』、『戦国鬼譚 惨』では『画龍点睛』、『城を嚙ませた男』では『江雪左文字』といったところでしょうか。
 さて、そこで問題なのは、短編集を貶める場合の常套句「作品にばらつきがある」です。
 「どんでん返し」は麻薬のようなものですから、読者は常にそれを求めます。それゆえそれがないと、肩透かしを食らわされた気がします。
 それが「作品にばらつきがある」という発言につながるのですが、よく読んでみると、それぞれの作品の品質は均一で、それぞれが役割を果たしていることに気づくわけです。
 さて、得意がって工房の秘密の一つをばらしてしまいました(笑)。
 興味をお持ちになった方は、『疾き雲のごとく』を買って下さい。
小説家志望者ではなくとも、小説の創作法を知る上で、格好のテキストになると思います。それが、さらに小説を読む楽しみにつながっていくわけです。
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プロフィール

伊東潤

Author:伊東潤
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