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2012-09-10

「越えねばならない坂がある」

疾き雲のごとく(帯付き)1
(このカバーは、講談社から発売の早雲の連作短編集『疾き雲のごとく』)

いよいよ北条早雲公について、長編を執筆する機会を得ました。

http://www.nhk-book.co.jp/rensai/ito/index.html

早雲についての長編小説には、司馬遼太郎先生が残した遺産の中でも、最高峰の一つである『箱根の坂』があります。
『箱根の坂』は司馬文学の集大成と呼ぶにふさわしく、その絶妙な語り口はもちろん、短歌や里謡を巧みに引用し、読者を縦横に魅了するその手腕は、名人芸と呼ぶにふさわしいものでした。使用する語句から句読点の位置まで計算され尽くされた『箱根の坂』こそ、歴史小説が文学に昇華された記念碑的作品だと、私は思います。
これまでも多くのメディアで語ってきた通り、津本陽先生の『深重の海』、三島由紀夫先生の『憂国』と並び、私のベスト・フェバリットであり、おそらく生涯、それは変わらないでしょう。
しかし、越えられない坂はありません。
私にとって司馬遼太郎先生の『箱根の坂』は、いつの日か越えねばならない坂でした。
その坂を越えてこそ、作家としての次の眺望が開けてくるものと信じてきました。
それゆえ2009年には、『疾き雲のごとく』を上梓しました。しかし早雲を題材にしたものの、この作品は連作短編集であり、司馬先生との真っ向勝負を避けた感がありました。
今回、連載が始まった『黎明に起つ』は、真正面から『箱根の坂』に挑んだ作品です。
しかし挑むといっても、競技スポーツのように勝負しているわけではありません。勝負という概念自体、文芸の世界では不必要なことだと思っています(「坂を越える」というのは勝負することではなく、克服するという意味です)。
司馬先生には司馬先生の早雲像があり、私には私の早雲像があるからです。
多くの研究家の努力により、時代の変遷と共に、早雲の実像が明らかになってきたことも、それには関係しています。
小説を書く上において、それは、プラス面よりマイナス面が多いことも承知しています(史実が明らかになることで、足枷が増え、自由に動かせなくなるのです)。
しかし私は、あえて最新の研究成果を踏まえ、実像に近い早雲像を描くことにしました。
その前提で、どこまで面白い話になったかは、読者個々の判定に委ねるしかありません。
こうした無謀な挑戦者が現れたことを、あの世にいる司馬先生も、きっと喜んでいられると思います。
また同時並行的に、津本先生の『深重の海』の世界観を引き継いだ連作短編集『巨鯨の海』にも取り組んでいます(「小説宝石」誌上にて不定期掲載中。2013年5月に単行本化)。
となると、いつかは2.26事件ですね。
越えねばならない坂がありすぎて、もうへとへとです(笑)。


PS)
あっ、それから雑誌「プレジデント」10月号のP131に、インタビューが掲載されています。
その時の写真が、いかにも剛腕作家丸出しなので笑えます。
とても満足の行く記事なので、ビジネス系の方は買って下さい。


プレジデント10月号
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プロフィール

伊東潤

Author:伊東潤
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【最近の作品】
『巨鯨の海』
『王になろうとした男』
『峠越え』
『天地雷動』
『野望の憑依者』
『池田屋乱刃』
『死んでたまるか』
ホームページ
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